午前3時、ラジオ深夜便。
藤山一郎、松田トシが圧倒的な歌唱力で
若山牧水を歌い上げている。
白鳥は 悲しからずや
空のあお 海のあおにも
そまずただよう
いざゆかん ゆきてまだみぬ
山をみん このさびしさに
君はたうるや
幾山河 越えさりゆかば
さびしさの はてなんくにぞ
今日も旅ゆく
昭和20年代後半、教科書も満足になかったころ、
転校生の私は教科書が揃わなくて困っていた。
ちょうど近所に先輩がいて、
お下がりを使わせてもらったことがあった。
卒業後は音沙汰なしになっていたのだが、
先月、横浜に住むその先輩が亡くなったと風の便りが入った。
五十数年も前の話しながら、何くれとなくお世話になったことが忘れられず
一度お墓参りをさせてもらいたいと探したところ、何と我が家と同じ公園墓地だった。
「白鳥の歌」はその人から通学の行き帰りに教わって覚えた歌だった。
お墓詣りをしたその夜(正確には翌日)に聞くラジオの歌は心に沁みて、
Mさんが訪ねてきてくれたのだと目頭が熱くなる。
小柄で優しく静かな人だった。。。。
公園墓地の隅に今年初めて十月さくらを見た。
竜胆が一輪。 残り花の萩も寂しく咲いている。
淋し気な花ばかりが目立ったのは季節柄だからなのか。
書店へ立ち寄ると来年のカレンダーがずらりと並んでいる。
家のカレンダーも後一枚を残すにのみになった。
バス停にイチョウの葉がはらはらと散る。